人間は放っておくと考えてしまうんだけど、絵を描いているときって実は何も考えてないんですね。ある意味で思考がストップする。子どもの無心とはちょっと違うんだけれども、それに近づいていく。つまり幼児に近づいていくんです。そこで初めて身体が動き始める。脳というのは、悩んだり苦しんだり悲しんだり迷ったりして、時には嘘もつくんです。時にはどころか、しょっちゅう嘘をつく。本体であるはずの僕は、普段は、私という自我に振り回されているわけですね。だけど肉体は一切振り回されてなくて、すごく正直なんですよ。
文学界「横尾忠則インタビュー」より