現実

ただ現実を見るということではない、と思うんですね。現実というのはそれ自体、例えば自然や静物や人間の顔は、それ自体充実していて魅力が十分ある。それを描写という方法で描こうとすると、かえってベールをかけてしまうことになる。だから描写ではなく暗示すること、あるいはほのめかすことによってその対象の魅力を表現することができる。私たちは永遠なるものに憧れるが、それは実は無に等しいかもしれない。だとすれば徹底的に現在に執着すべきなんだと。目の前に展開する生活を凝視するうちに、なんでもないもの、つまらなく思えるものが、次第に精彩を放つようなものになる。それを捉える、そしてそれを表現することが、芸術家、詩人であり画家の役割なんだということを言うんですね。これはマラルメについてももちろんマネについてもまさにそうなんだと思います。

  放送大学名誉教授 柏倉康夫さん

 

  

マネの絵画 (ちくま学芸文庫)

マネの絵画 (ちくま学芸文庫)

 

 

19世紀末は産業の発展に加え現実の暮らしや人間の生き方を語る哲学までもが一気に大きく変わった時代です。そこでは世界を単一の視点で見ることに疑問が生まれていました。マネは周囲に二階席の客のざわめきや謎めいた男など様々な視点で見た現実の断片を書き加えたのです。この女性の存在を通して世界の本質とは調和できない現実であることを突きつけたと思います。

 コートールド美術館館長 エルンスト・ヴェーゲリン・ヴァン・クラーベルゲンさん